Attention!
- 現代パロ。
- ぼっちゃんとルックは高校生設定で、すでに付き合ってます。
- ルックは遠くの高校に通うために現在独り暮らし中。そのルックが冬休みに里帰りした話です。
- ついでにぼっちゃん付いてきます。(図々しい)
- ぼっちゃんが一割増しでヘタレで、ルックが二割増しでデレてます。
- 軽くこれ誰よってぐらい性格破綻してるかもしれないです。
ささやかな歌を
どっちかっていうとルックはあまり交友関係を広げないほうだ。
つるむのも馴れ馴れしくするのも好きじゃない、気の知れるやつが何人か要ればそれでいいんだと何時かの時言っていた。
実際にルックはどこかに一線を張っているようにも感じられる。
だから、今こうして驚いているのはしょうがないことだろう。
「ん、何、アンタどうかしたの?」
「いやどうかしたというかなんというか、」
「ルック! 夏以来だね、久し振り。まったく待ち遠しくて仕方なかったんだよ。風邪とかひいてないかな? ルックは体が弱いんだから気をつけないとね」
「ルックさま、お帰りなさいませ。お久し振りです。この度はセラをお誘いくださりありがとうございます。ルックさまの顔を見ることができてセラは幸せでございます 」
「……………」
クリスマスでの食卓、呆然とする俺の目の前で、ルックは双子のお兄さんと近所の女の子によって両側からの熱いホールドを受けていた。
久し振りに会えたのだから熱烈な歓迎ぶりもわかるけど、それにしても熱すぎじゃないだろうかと、ノリに付いていけない俺はさっきから置いてきぼりをくらっている。
なんだか過剰接触のスキルが付いたグレミオがふたりいるみたいで、頭の中にほわわんと笑う従者が浮かんでは消えた。
クリスマスパーティーは思っていたよりも盛り上がっていた。
というか招待したふたりのテンションが高い。
ルックの兄ササライは、近隣の宗教学校に通っているらしい。双子だが互いに違う扶養者だから、会う機会も滅多にないんだとか。
『よくわかんないけど普段離れている分妙に過保護なんだよね』とはルックの談だ。
…過保護の域はゆうに越していると思う。
そしてそのササライに負けず劣らずルックに執着を見せているのが、近所の子だというセラだ。12歳。
なんでもセラはレックナートの占いに興味を持っていて、昔はよくここにも遊びに来ていたらしい。
初めの方はレックナートに用があったセラだが彼女も中々忙しく、セラの相手はルックの役目だった。その為か今ではレックナートよりルックを慕うようになり、その結果がコレだとか。
妹のような存在だとルックは言っていたが、セラがそれ以上の想いをルックに抱いているのは一目瞭然だった。
一応お付き合いしている身としては小さな女の子でも微妙な気分だ。
「マクドールさん、でしたっけ? 初めまして、ルックの兄です」
セラの話を聞いているルックがありえないぐらい優しい笑みで、何、ルックって実は保育士とか向いてるとか?と物珍しい目でそっちを見ていたら、いつの間にかササライが隣にいてにっこりと話しかけてきた。
ルックと顔が一緒なだけに俺は頭が正常に動き出すまでに数瞬きを必要としてしまう。
初めまして、とユンファも会釈をすると、笑顔のまま隣に座ってもいいですか?と言ってきたから頷いた。
「ルックと同じ学校の方らしいですね。彼の事だから向こうで独りじゃないかって心配していたんですけど、貴方が遊びに来ているってことはそうでもないらしくて安心しました。ルックがこんなところまで人を連れてくるなんて初めてで」
「いやそこは俺が無理に言ったんです。年末に押しかけてルックも迷惑しているんじゃないですかね」
ありえそうだと内心頷きつつそう言えば、ササライはゆっくりと首を降った。
「いいえ、本当に嫌ならルックは言いますよ。そこら辺の線引きは遠慮がないですからね」
紅茶を口につけながら彼は苦笑して、「僕は会いたい!って言っても断れ続けましたからね」なんて言う。
会う機会があまりないとは言っていたが、ササライは本当によくルックのことを見ているとその一言でわかった。
双子って言ってもこんなに違うんだな。
まじまじとササライを見ていると、彼はちらりと俺の後ろに視線を向ける。
なんだ?とユンファもササライの視線を追おうとするが、それよりも早く、ふうっと一息を吐いたササライが微苦笑を浮べた。
「実は興味があったんですよ。あなたに」
「へ?」
「ルックが許した人ってどんなのだろうって」
じっと見られて、目を瞬かせた。
青色。目の色だけで受ける印象が全く違ってくるんだなあなんて暢気なことを考えて。
ササライがゆっくり口を開くのをただ見ていた。
と。
レックナート様、とルックががたりと席を立つ。
「そろそろ時間ですからセラを家まで送ってきます」
「あら、もうそんな時間ですか」
姉のウインディと談笑していたレックナートは時計を見て確認すると、柔らかく微笑んでセラの頭を撫でた。
また遊びにいらっしゃいとの言葉に、セラが名残惜しそうにしながらも素直に頷く。
「行こう、セラ」
「はい」
「待って、ルック。セラは僕が送って行くよ」
急に席を立ったササライはレックナートにお礼を言うなり、セラの手を取って、行こうか、と促すと、そのままあっさり玄関へと向かってしまう。
ぽかんとしたルックが慌てて、どういう風の吹き回しさ、今までセラを送り届けたことなんてなかったのに、と食いつけば、ササライは笑って、まあ今日はそういう気分ってことだよ。折角マクドールさんが来ているのだから、ルックはゆっくりしていればいいよ、と言った。
ルックは未だにどこか腑に落ちない様子だったが、それ以上は追求しなかった。
「……じゃあ頼んだよ」
ルックは一心に見上げてくるセラの頭を撫でると、マフラーを柔らかく巻きつけてあげた。
寂しそうにぎゅっと抱きついてきたセラの背を叩いて宥めるルック。それを遠巻きに見守っていたユンファははあと感嘆をもらした。
「あんな柔らかいルックの表情初めて見た」
「でしょ? セラだけなんですよ、ルックがあの顔を見せるの。ずるいなー」
「なんかここに来ていろんなルックを見せ付けられた気がします」
「そうですね。僕も貴方を通して初めてのルックを知りました」
何を言っているのだろうとユンファがササライを見ると、困ったような弱ったような調子で言った。
「僕あんな風に彼に睨まれたの初めてです。よっぽど僕が貴方と話すのが嫌らしい」
「は?」
なんだか含みをもたしたような言葉を残して、背を向けるとササライはセラを連れて去ってしまう。
言っている意味がよくわからなくてぼけっとふたりが消えた方向を見ていると、ルックが袖を引いて「いつまで見てんのさ」とちょっと怒鳴った。
ユンファとしては怒鳴られている意味もわからないが、とりあえず先を歩くルックに付いて行く。
「あれ、ルック。家には戻らないのか?」
「ちょっと散歩。帰っても片付けしなきゃいけないし面倒くさい」
ルックはぞんざいにそう言って歩き、ユンファは辺りの道もわからないから置いていかれないようにとすぐ横に並んだ。
冬の夜は身を切るように寒い。上着は着ているのだが何せ突然のことでマフラーや手袋といったものは置いてきてしまった。風がないのがせめてもの幸いだ。
ポケットに手を突っ込んではーっと白い息を吐いて隣へ視線を移すと、鼻の頭を赤くしたルックがずびっと小さく鼻をすする。
上下右左と無駄に視線を動かして誰もいないのを確認したユンファは、ポケットから手を出してルックの冷たい手と絡めた。
すぐにルックは視線で訴えてきたが、対するユンファは何も言わず視線も故意として合わせなかった。なぜだかここで何か言葉を口にしたら負けだと思った。
不思議なことにルックもいつものように悪態つかず、手は振り解かず指を絡ませたまま視線を戻した。
「ねえアンタササライと何話してたの?」
「ん? 特にとりとめのない話」
「それにしては楽しそうに話してたね」
「 ルックの話もしてたからな」
「ふーん」
抑揚のない声はいつものことだけど、そこに僅かな棘があるのは気のせいだろうか。
先ほどのササライの言葉といい、彼を執拗に気にするルックといい、さすがにそこまで鈍感なユンファではない。ユンファは口角を上げて傍らのルックをじっと見つめた。
「…ルック、もしかして妬いてる?」
「ばっ!」
バカじゃないの!といつものように続く言葉は、しかしルックの口から発せられなかった。
不本意だとばかりに顔を歪めて、ふいっとそっぽを向く。あ、拗ねたとユンファは思った。けれどぼそりと小さく吐き出した次の言葉に、思考が止まるとは思ってもなかった。
「なにさ、妬いちゃ悪いっていうの」
…まず、何を言われたのか言ったのかわからなかった。じわじわっと頭の奥の奥まで声が響くまでに時間がかかる。
何?なに突然そんな可愛らしいことを言っちゃってくれてんの。
頭の中は天使がラッパを吹くどころの話じゃなくて、火山が爆発して溶岩があふれかえっている。熱い、とにかくアツい。
繋いだ手をぐいっと引っ張って問答無用でルックをこちらに振り向かせると、驚いた新緑の目と飛び火したように赤いルックの顔があった。
「な、」
その顔に顔を近付ける。軽く唇を合わせて短いキスをしてから次にしっとりと重ねた。ルックの声が、溶岩の中に蜂蜜をかき混ぜたみたいに甘くて、ここが外だということに気付いて相当参った。
何度か啄ばんで、名残惜しいが下唇を甘噛みしてそこを舌で舐めて、ようやっと顔を離す。
はっとルックが吐いた息が奥の軸をじんわりさせたから、困ったとユンファは苦笑した。
ルックを抱き寄せてこめかみに音を立ててキスをすると、髪に頬を擦り寄せてようやく落ち着く。
「あーこんなルック見られるなら俺ここに越して来てもいいかも」
「…バカじゃないの、アンタ。っていうかバカだ。外でこんなことするなんて信じられない」
「そうさせたのはルックだから」
肩にルックが顔を埋めたから、首筋に細い髪が当たってどうもこしょばゆい。かわいい、なんて声に出したら殴られそうだから黙っておいた。
「俺ここに来てよかった。いろんな景色も見れたしいろんな人にも会えた。楽しかった。でもやっぱり一番の収穫はルックだな。いつもより何倍も素直だし妬いてくれるし」
「うるさいよ。だいたいここに来たのだって田舎がどんなものか見たいから来たんだろ。趣旨から外れすぎだよ」
「え、ルック俺がここに来た理由そう思ってたの?!」
思わず顔を上げてルックを凝視すると、ルックも肩口から離れ片眉を持ち上げた。
違うの? との心底不思議そうな声に、ユンファは堪らず大きな溜息を吐いた。
「どうりで来た瞬間の反応が薄いと思った…」
「は。違うの、ってちょっとっ!」
脱力したかのように体重を掛けられてルックは焦る。耳元でまた溜息を吐かれてびくりと体を震わせると、そのままぎゅっと腕に力を込められて耳元で観念したようなちょっと拗ねたような調子で囁かれた。
「ここに来たのはクリスマスをルックと過ごしたかったから。もっと年末になって帰るのかと思ったらすぐ帰るとか言うから、正直かなり焦ったんだからな」
「…だからこんなところまで来たっていうの? アンタも大概物好きだね」
「こんなルックを見られたんだから価値はあったさ」
ちゅっと頬に湿った感触がして、恥ずかしいやつだなと蹴りのひとつでもいれたいルックであった。外でベタベタするのはやめろ、とか背中が泡立つから耳元で囁くな、とか、いろいろ文句を言ってやりたいのに言葉として出ないからから不思議である。
ふと、ユンファも明日には帰るのだというのをルックは思い出した。何の偶然か相手も同じことを考えていたらしい。
「ルック、帰ってきたら連絡、な。待ってるから」
「多分年明けになるよ。こっちですることもあるし」
「いいよ。年が明けたら一緒に初詣に行こう。ルックおみくじとか引いたらあんまり良くないもの引きそうだな」
「なにさ、運だけが良いアンタに言われたくないよ」
「はは、楽しみだ」
抱き締められていた腕が解かれ、自然と距離を置いてルックは視線を上げた。見上げれば、冬の闇とは違う黒色があたたかな色を浮べていた。再確認する。ルックが好きな色だ。
約束だと繋いだ小指の感触を、ルックは今でも覚えている。
伸び上がって頬に唇を寄せれば、くすぐったそうに笑う、彼の顔も、ルックの中では鮮やかな彼との思い出だった。