君の


なまえ。
彼の名前には他のものと違って特別な響きを感じる。
たった三文字の言葉なのに、それを呼ぶのがひどく心地良い。声に出すと何か温かいものがすとんと広がる。
彼がいる安堵。
何度言ってもいい足りない至福さ。
そのことに気付いたのはいったいいつからだろう。
思えば昔からよく彼の名前を呼んでいた気がする。
それこそ用もないのに口の中から零れるほど、その名前はよくこの口に合った。
たった三文字だ。
その三文字が心底愛おしい。
何を言っても歩みを止めないお前が、名前を呼べば簡単に足を止める。振り向く。愛しい翡翠が絡む。
いつからか彼も名を呼ばれることを好んでいると感じれば。
もっとその三文字が好きになる。
もっと言いたくなる。
口の中で転がす、呼ぼうか。
どんな小さな声で言っても聞こえているんだろうな。俺の声。

ほら、抱き締めれば細い身体に甘い匂い。
至近距離で囁けば、ぴくりと反応して安心したように息を吐くんだ。
そんな態度をされると、だから呼ばずにはいられない。
口によく馴染んだ名前。
声に出しても出さなくても、ゆるりと優しい心地を与えてくれる。魔法のような三文字。

ああ、一体いつからだろう。この名前を呼ぶ声が、愛を囁く言の葉と同じ響きをするようになったのは。
気恥ずかしいな。
今では言い馴れたその名前はきっと誰が聞いても、穏やかな声色になっているに違いない。
けれどそれでもユンファはその名を頻繁に口にする。
名前を呼ぶ俺の声を、どうかその身体に刻んで。


「ルック、愛してるよ」


そしてその名前をずっとずっと、これからも呼び続けるのだ。