喉の奥で、声にならない声で名前を呼んだ
呼ぶことが出来ない、その名前。
何度も言おうとして言わないままの時を過ごしてきた。
声に出そうとすれば喉の奥で詰まって、結局唾液と共に呑み込んでしまう。
他の人間の名前なら簡単に口から出すことができるのに、どうして彼の名前だけこうも苦労するのだろうか。
たった四文字を口にするだけだ。
それがどの名前よりも難しい。
躊躇する。
悔しさと歯痒さが胸の中で駆け巡る。
呑み込んだそれはひどく苦い味、いつだって声にならない。
彼はよく己の名前を呼んでくれるというのに、ルックはその名を呼べずにいる。
この蟠りはどうしたらいいのだろう。
彼の口から己の名前を聞いてその胸に抱かれる時、いつも考えてしまう。
正直名前を呼ばれるのは好きだ。
ここにいるという安心、必要とされている喜び。
彼の口から発せられる呼び声がひどく心地良い。
彼の声だけが他の誰とも違う響きをしている。
特別。
名前を呼ばれるだけで、こんなに穏やかな思いを感じさせてくれる。
だから自分だって彼の名前を呼んで同じ気持ちを与えてやりたい。
しかしそれにはこの強固たるプライドが邪魔をするのだ。
たった愛しいその四文字を続けて声に出すだけなのに、叶わない。
いつもふとした瞬間に寂しさを感じる。
呼びたいのに、この声で。
だからルックがユンファの名前を呼ぶ時はいつだってアツイ熱に惑わされているときだ。
身体を交わして熱に支配されている間は、頑丈な自尊心も熱によってどろどろに溶かされてしまう。
許せる。
いつもは喉に詰まって出ない言葉も、このときばかりは熱さに任せ吐き出すことができる。
ねえ、だからしっかりと聞いて覚えていて。熱ばかりではなく、君の名を呼ぶ僕の声も。
「――――ユンファ、」
けれど本当はいつだって、心の奥で彼の名前を呼んでいるのだ。