これでも戦争という戦いの中に身を置いていたのだから、死というものをそう遠くで考えたことはない。
それはいつだって隣り合わせで笑っていて、突如せせら笑うように舞い降りると、鋭い鎌で簡単に命を屠っていく。
だから心の奥底では唐突な別れにも耐えれるように、いつだって覚悟をしておかなければならない。
死神の紋章があるから、逆に距離が近すぎるぐらいだろうか。言葉は悪いが人の死には見慣れている。
 しかし彼だけはダメだ。彼が死ぬことだけは許せない。
それだけは絶対に認めることも受け入れることもできないし、そもそもそんなこと考えたくもない。
けれどももし、万が一、何かあるとするならば、その時はこの目の前で、いやこの腕の中で逝くといい。
せめてもの願望だ。
息が止まり翡翠が見えなくなる一瞬まで、ずっと目を離さず。最後の最後まで温もりを感じている。
誰にだって渡さない。
魂喰い、ソウルイーター。特にお前だけは絶対に。奪われも盗ませもしない。
いいか、これは宣戦布告だ。


「……あんたって時々突拍子もないこと言うよね」
「そうか? 聞いてきたのはルックだろ」

「ずっと一緒にいる」とかそんなことを言ってきたら、冗談半分に「じゃあ死ぬときも?」と返したらそんな風に返されて驚いた。
微笑を浮べて真面目な目で、そしてどこか自信ありそうな口調でユンファがそんなことを言うのだ。
僕がその紋章に食われるだって? ふん、余計な心配なんだよ。
 けど彼が死ぬときは自分だって傍にいて、その刹那まで見ていたいとルックは思う。
何もかもが止まるまで目を逸らさずに。
その時はソウルイーターにだって邪魔はさせない。
命が割れる音がするまで、その音が響いた後だって、彼は自分だけのものだ。
………って。何あいつと同じことを言っているのだろう…、恥ずかしい。

 ふと抗うまでもなく温もりに包まれる。

「な。最後の場所が決まっているんだから、気兼ねなく生きていけるだろ」

冗談じゃない言葉を、ゆるりと優しく囁かれ。

「……。僕の死に場所はここだって言いたいわけ?」
「そう。んで俺の死に場所はルックの隣」

物騒な決め事を、まるで明日の予定を立てるように決めていく。
だからどうなったって、最後に映るのはこの顔を見ることになるのだろうか?
けれどそんなことしたって、だんだんと弱っていく醜態を絶対に相手に見られたくなどないから。
結局は全力で生きるのだ。
ユンファもルックも、この決め事が夢見事だとはわかっている。
けれど、少しだけ疲れた時は、
この腕の中に戻ってきてもいいだろうか?
もし命が散る間際、この瞳と温もりに包まれて飛びゆくことができるなら、
遊び言葉で綴られていく決め事は、それはとても素敵な夢。


せめて僕の腕の中で逝くといい