初めからこの計画を考えていたわけではなかった。
夢に苛まれている時、どうすればいいのだろうかと、そうやって思案していた日々もあった。
しかしそれはぼんやりと。秋空の雲のように薄いものだったし、実行に移す考えではなかった。
どうせ無理なことだ。
心の奥で諦めながら記した絵空事、その計画が今現実として遂行されようとしているのは、その時のメモを本の間から見つけたためか、戦争という名で見せ付けられた二度の光のせいか。
まず不思議なこともあるものだと思ったよ。
君が見せた強い光に見せられ、未来への絶望しかなかった己に、君がもたらした希望という名の色が塗られていく。
不可能だと思っていた壁を簡単に壊し突き進む強さ、見せ付けられる輝きに、まず光だと思った。
青空にも似ている。
北から連れ出された昔、初めて瞳に映った空の広さと青さに、無限の未来が横たわっているのだと。
覚えた既視感、輝く光に自分でも何かが出来ると、初めて希望が生まれた。
そう、確かに希望を植えつけたのは君で、君が成し遂げた強さを目指した。君の全てが眩しくて、羨ましかった。
なのに今、僕がやろうとしているのは君とは真逆のことで。
国を救い多くの人が歓喜を上げた君の行い、その強さを目標としやってきたはずなのに。
人々から恐れられるひとつの名、悪鬼。そう呼ばれる僕の愚行。
不思議だとは思わないかい?
君の光を見て思い立ったことなのに、民衆が呼ぶ名前は全く別のもの。
けど悪鬼というその響き、愚かな僕にぴったりだと、何かが嘲笑うんだ。
所詮同じものを目指したとしても、やはり君と同じものには行き着かない。
言ったのは、この計画の軍師だっただろうか。
トランの英雄と崇められる彼が救ったのは国、僕が救おうとしているのは世界、規模が違うから民衆の賛同が得られないのは仕方がないのではないかと。だから悪鬼や破壊者などという異名で呼ばれるのではないかと。
紋章と人の命を奪うという強引な手口だからそう思われても仕方がないことだ。
そう言う。
しかし彼は大きな勘違いをしている。
世界の未来を救うという前提で行動をしているが、自分が最も何を望んでいるのかは己がよく知っている。
大掛かりなことをしておきながら、所詮は紋章で縛られた自分を解放したいだけなのだ。
傲慢な考えだろう?
それを世界の未来と銘打って、カモフラージュしている。だからセラには悪いと思えて仕方がない。
それにあともうひとつ、誰にも言わないけれど、救いたいものがある。
今どこかで旅をしている君へ、光を見せ今僕がここにいる一旦を担っているとも言える君の、その未来を鮮やかなものにしたい。
誰にも言えない奥底の秘密だ。
だから軍師、規模が違うというのは逆なんだよ。
僕はただ、自分を救いたい、出来ることなら彼の未来を救いたい、たったふたりを救いたいだけなんだ。
国を救った英雄と、たったふたりの人間を救いたいという鬼。
規模が違うなら、彼の方がとんでもなく大きなものを救っているんだよ。比べられるものではない。
英雄と呼ばれる君を間近に見て目指し、辿り着いた鬼という名。
しかしこの道を選んだことに、悔いはない。
近いうちに始まるカーニバル、どこにいるかも知らない君に見ていて欲しいんだ。
間違いかもしれない計画、しかし悩み抜いた上の方法、自分を信じることを教えてくれたのは君だっただろうか。
だからどうか見ていて。
これが僕にしかできないことで。
これが僕なりの救済なんだと。
それを信じて、僕は歩くんだ。