ずっとけない方程式


時々、距離を測り間違える。
ふと気付けばそこにいるのが当然といった風な君と、それを許している自分がいるのに気付く。
いつの間にこんなに近い存在になっていたのだろうかと。
思い返してみても、ルックにはわからない。
だって最初は嫌いだったはずだ。
高慢で、妙に自信家。いつも人の中心にいる、自分とはまったく違う種類の人間。眩しすぎる光。
閉ざされた世界から出てきたルックにとって、それは強烈だった。
だから会った時から好きじゃなかった。
なのにどこをどう交わったのか、気付けば彼を目で追う自分がいて、ルックは何度も嫌気を感じていた。

「理由があればいいのに…」

窓の外を見ながらポツリと呟かれた言葉に、ベッドに腰掛け本のページを捲っていたユンファが、ん? と反応する。

「理由って、なんの理由?」
「君が傍にいる理由」
「……お前、今更そんなこと…」

自分の思いを完璧に無視したルックの言葉に、ユンファはここまで鈍感だったかと呆れたけれど、ルックはちらりともこちらを見ようとはしなかった。
好きだから、とかいう理由は? とユンファが問えば、ルックはそういうことじゃない、と返す。
じゃあどういうことになるのかということになるけれど、ルックには理由が必要だったのだ。
自分が彼の傍にいる理由が。自分を納得させることのできる、明確な理由が欲しかった。
ユンファは好きだからと言った。
ルックも傍にいること、触れることを否としていないから、ユンファと同じ気持ちなのかもしれない。
けどそれじゃあ曖昧なんだよ。自分を納得させることができない。


ルックは青い空を眺めた。
ルックはまだ好きだとか、相手を思う気持ちを十分には理解できていない。
ルックはいつだって根拠に基づいた確かな理由を欲しがる。
何故?
不安だから。
――自分自身では、わかっていないけれど。


「ルック」

相手の行動を察しやすい彼は、ゆっくりと立ち上がって、考え込む少年をそっと抱き締めた。
…温かいと、思った。
けどこの温かさに包まれる理由がルックにはわからない。
ああ、ちゃんとした理由があればいいのに。
例えば真の紋章を持つ者同士だから、隣にいて居心地がいいだとか。
そんな簡単で納得できる理由が、ひとつでもあればいいのに。
そうすれば堂々と彼の隣にいられる。
相手の肩口へ額を預けて、ルックはきゅっと赤い胴着を握った。
近くにいられる理由を必死に求めた。必死に探した。
けどルックにはまだまだわからない。
そこまで必死に探すことが理由だと、ルックはまだ気付かない。