らぎ


「なあ、ルック」


呼びかけると、お前はいつも不機嫌そうな顔で。
でもしっかりと、逸らさずに目を見てくる。
俺はその緑に映りこむのが好きだったんだ。
その生意気な口を叩く声が、好きだった。


震える手をそっと伸ばして、白い頬を撫でる。
少しの体温もかんじない肌。


「前はこんなこと絶対にさせなかったのに」


警戒心むき出しで、妙に勘が鋭かった彼。
思い出はいつだって鮮やかだ。
笑おうとして、失敗した。
涙が勝手に出てきて、顔が歪む。
意味が分からないくらい悔しくなった。
気高くて負けず嫌いじゃなかったのかよ、お前は。


「バーカ」


目を閉じたルックは。
呟いて、覆いかぶさっても、口付けたって、何の反応も寄越さない。
顔を離すと近くの顔が歪んで見えた。
数えるくらいしか見たことのない寝顔は、どれほど季節が過ぎ去っても綺麗だった。
愛しかった。


「………なんだっていうんだよ…」


震えた声。
何かが溢れ出しそうになって、ぎゅっと縋るように抱き締めた。
細い身体に求めていた感触。
大切だった、好きだった、愛していた。


薄い吹き抜けた空が広がる元。
みっともないぐらい泣き濡れた。
歯を食い縛っても声が洩れた。


らしくもない、悲しく優しい抱擁。
去った風が、一瞬だけ舞い戻ってそっと抱き締めてくれた。