天に太陽に。


情けない。
浅い息を繰り返す自分の呼吸が酷く耳障りで、呼吸を整えようと深く息を吸えば逆に血が咽に張り付いて息が出来ず咽た。同時に力が全く入らなくて引き裂かれるような痛みが腹にくる。

「はっ…、」

漏れる声も消えゆきそうなもので。

死ぬのだろうか。

大の字に地面へ倒れたルックはふと、落ち着いた思考でそんなことを考えた。こんな荒野の果てで、誰にも知られず朽ちてゆくのか。
本当に情けない最期だ、指一本動かない体に魔力もカラ、尽きる前に血の臭いに誘われた野犬に喰われるかもしれない。状況が状況だけにそんな想像はリアルに出来るのに、不思議と焦りや恐怖はなくて心中穏やかなものだ。コポリと湧き出たアカい血が口の端を伝う。
ああ、こんなところで死んだと知れば、彼はどうするだろうか。少しは悲しんでくれるかな?
こんな時にそう考える自分がとても不思議で、でもとても安心できて。
寂しがるかもしれないな、ああ見えて結構甘えたがりなのだ、あの男は。ストレスだって溜まりやすい。そのくせ誰にも話さずひとりで不安定要素を抱え込むこともしょっちゅうだ。あいつはよく人のことを天邪鬼だと言うけれど、人のことだって言えたものじゃない。実は顔に似合わず干しぶどうが卒倒するほど嫌いだし、寝坊助だし、たまにやること大人気ないし、
それから、それから――…。

『どこに行ったって必ず追いかけてやるから』
「………」

大の字に倒れたルックの、目に映る清々しいほどの一面の青空。どこか遠くで鳶が鳴いた。
ルック、幻聴だ、こんな時まで彼の呼び声が聞こえるなんて。
太陽があまりにも眩しくて、ルックは目を眇めるとやがて重くなってきた瞼を閉じた。
真っ暗なはずなのに、つい昨日のように巡るのは同じ人物のことばかり。思い出すのは彼ばかり。
ああ、そうか。この胸にはこんなにもの彼との思い出が詰まっていたのか。こんなにも彼が溢れていたのか。
それはとても愛おしいものばかり。
さいごのさいごで、そんなことに気付いた。