※一万打と五万打絶賛執筆中です! しかしなかなか書けずいつも遊びに来てくださる皆様に申し訳ないので駄文を置いておきます。
合間に違うもの書いてごめんなさい!
しかも土方さんよく分からないし、総悟乙女だし、駄文中の駄文でほんとすみません。。暇つぶしにでもどうぞ!
それは音にするならぎゅーって。
度々総悟は俺に抱きついてきた。「じゅうでんー」と言いながら俺の背中から手を回して懐いてくる。
一応周りの目を気にしてかその現象が起こるのは俺がひとりで居る時だけだったが、それでも俺が文机に仕事をしている時だったり縁側に座って煙草を喫していたりなど時間や場所は関係なくとにかくとつぜん前触れもなく”充電”しに来た。
始まりは何だったかもう忘れてしまった。今では日常のありふれた内のひとつに仲間入りしていて、きっかけがなんであったか、思い出すことは困難なことになっている。
それでもどうにか記憶の糸を辿ると、確か最初は飲んで酔っ払った総悟がその行動を始めたように記憶している。俺と近藤さんを間違えているのか? といぶかしんだものだったが、その後も素面でやるから人違いではなく、俺と分かっていて充電をしているようだった。
ある日、仕事をしているとふらふらと部屋に入ってきて「じゅうでんー」と語尾を伸ばし背中に張り付いてきた総悟に聞いた。
「なあ。なんでひっついてくンの?」
「さァ」
「そもそも充電ってなに?」
「さァ」
「……なんかあった?」
この俺が総悟の心配をしているという自身の行動に驚きつつも、あまりの突飛な行動に少しだけ気にかけてみる。
こうして組の一員として働いているが、総悟はまだ十代だ。俺たちが気付かないことでも敏感に感じ取り、何か悩みや心配ごとがあるのかもしれない。
一応、これでも、兄貴分としてだ。
誰に対してか分からない弁明を吐いて俺はどんな小さな言葉でも聞き逃すまいと集中する。
「別に、何もありやせんぜ」
対して総悟の返答は「何もない」だった。声色も何かを隠しているようなものでもなくて、むしろ猫がゴロゴロと喉を鳴らすようにご機嫌な声だ。
なんだ。結局何も分からないンじゃねーか。
眉を顰め筆も進まず、俺は憮然とした表情になる。
すると立てていた聞き耳が小さな呟きを拾う。でも、とそれは言う。「でもなんか気持ちいいんでさァ」
……男の背中に張り付くのがか? やっぱり総悟が考えていることは分からない。
男に抱きつかれても嬉しくもなんともない。一般的にそうだろう。少なくとも俺はそうだ。
…そのはずが、けれどどういうことか俺の体は拒否反応を示さず、しかも回数を重ねるにつれだんだんと背中の温もりがないと物足りなく感じるようになっていた。
人と温もりを分かち合うことはあるが、それは温もりと呼ぶには熱く、分かち合うというよりかは絡み合うもので、それの気持ちよさは知っている。
だからこんなコアラみたいな格好で知る温もりは俺の知るところではなかった。しかし背中という一部分から伝わるほのかな熱が妙に心をほっとさせてくれて、俺を優しく穏やかに包み込んでくれる。
例えるならそう、日だまりだ。温かくて心地よい温もり。
くんくんと鼻を擦りつけてくるのがこしょばゆくて笑いながら、俺は何時からかこう思うようになっていた。
ああ、どうして背中なんだろうな。正面だったら、その温もりを抱きしめて存分にこの腕の中で感じることが出来るのに。そんなことを自然と考える。
ぐるぐると部屋の中を徘徊していたが、思い立つと俺は速足で部屋を出て廊下を進み総悟の部屋を目指した。
理由はひとつ。総悟を問いただす為だ。
何故”充電”をしに来なくなったのか、と。
前触れもなく始まったと同じように、予兆もなくそれは唐突に終わりを告げた。
待っていても、総悟は”充電”をしに来なくなった。いつ来るのかいつ来るのかとこっちがそわそわと落ち付かない気持ちで待ってやっているというのに、「じゅうでんー」と間延びしたいつもの声はいつまで経っても聞こえなかった。わざとひとりの時間を増やしてみても総悟は姿を見せない。何かあったのだろうかと思っても、会議や飯の時に見る総悟は相変わらずで、見廻りも特段普通だ。いつものように済ました顔で毒を吐く。
俺に対しての接し方は変わらないのに、何故”充電”をやめたのか。
そもそも”充電”がない今の状況が本来の日常ではなるのだが、それを捻じ曲げて”充電”がある日常を創り上げたのは総悟だ。だからそれをぽいっと放り投げるのはあまりにも無責任であり許しがたいものでもある。
だってそうだろ。俺の世界はこんなにも変わってしまったのに、その張本人が抜け駆けするなんて許さない。
「総悟」
部屋に入って開口一番名前を呼べば、部屋の真ん中で胡坐を掻いてゲームをしていた総悟が顔を上げた。
相変わらず目が綺麗な青空で、性格はひん曲がっているのにこうも違うのは詐欺だなとどうでもいいことを考えてしまう。
「総悟。あれはどうした?」
「あれってなんですか?」
「あれはあれだ」
「あれって言われてもなァ。あ、エロ本ですかィ? うわー。その歳になって言葉に出すのが恥ずかしいってアンタどんだけ初心なんでィ」
「じゃなくて! 充電のことだっつのッ!」
つい、言ってしまった。
総悟のきょとんとした顔を見てハッとする。
具体的な名前は言わず雰囲気で伝えようとしたのに、失敗してしまった。
何考えているのか分からない、頭が空っぽなことだけは分かる顔でじっと一心に見上げてくるから俺は居たたまれなくなった。ガシガシと頭を掻いて、総悟の前にドシンと腰を据える。こうなれば長期戦だ。
総悟が丸い目をぱちぱちと瞬いて、くくっと可笑しそうに笑った。
「なんだ。土方さん、充電気に入ってたんですかィ」
「き、気に入ってるとかじゃなくて別にそんなんじゃねーけど、いつもあんなに引っ付いてきてたくせに急に止めるとどうしたのか気になるだろ!」
「あんま言い訳くせェと、ほんと図星っぽいですぜィ」
にやついた顔でつっこまれて、うっと俺は押し黙る。それが更に、その通りですと曝け出すことになったようで、ははっと総悟が声を上げて笑った。だからコイツは性質が悪い!
「あーあ。やっぱ土方さん面白れェや。ね、いっそ芸人に転職―っていうのはどうです?」
「どの口が言ってんだ? あ゛? その口か?」
「いやァ、お茶目な可愛いジョークじゃねェですかィ。ほらほら真剣なんて物騒なモン仕舞って」
ふぅっと息を吐いて、総悟が視線を伏せた。青色の目が睫毛の間から見えて、それがどこか悲しそうで、俺は何かを掴まれる思いを抱く。
ゲーム機はいつの間にか総悟の手を離れていて、不思議と日に焼けていない指をいじいじと無意味に総悟が弄る。
「充電を止めたの、特に意味はないんです。ただ一人相撲っていうの? なんか虚しくなっちまって」
「何が虚しいんだよ」
問うても総悟は曖昧に笑うだけだった。妙な沈黙が落ちて俺は総悟のつむじを見るばかりだ。コアラごっこがしたかったんです、と総悟が口走ったが、それは嘘にまみれていたから拾ってはやらなかった。
「じゃあ、充電が嫌いになったわけじゃないんだな」
どちらかが部屋を出ないと永遠に続くんじゃないかというほどの沈黙を俺は自ら破った。
口に出した問いかけに、総悟が顔を上げてきょとんとする。まァと首を傾げながらも頷く。
俺は飲み込むようにゆっくりと首を縦に振った。
「飽きたわけでもない」
「そうですけど…でももうやるつもりはありやせん」
「何故だ? お前は嫌になったわけでも飽きたわけでもない。つまりは今でもやりたい気持ちは残っているんだろ?」
総悟はぱちぱちと目を瞬いて、そしてギュッと口を噛み締めて眉を寄せた。そう言うのは酷いですと言いたげに青い空が一瞬潤む。総悟が顔を伏せて何かに耐えるように小さく肩を震わせた。これ以上は無理だ。俺が辛いんだと言って畳に置いた手を力いっぱい握り締める。
期待ばかり膨らませていっそ自分が惨めだ。懺悔のように吐きだす。
俺はそんな総悟を見下ろしていた。そして腕を掴むと無遠慮に引っ張った。
「えっ?」
引っ張って、腕の中に抱き込む。すっぽりと入った温もりを抱きしめて、髪に頬を摺り寄せた。
そうそう、これこれ。
この温かさを欲していたのだと数十日ぶりに手に入ったそれにすぅっと苛立ちが体の中から雲散した。手を回して、こんなに小さなものがあんなに温かかったのかと驚きながらも離さない。
「ひ、土方さん!」
腕の中で暫く大人しくしていた総悟が我に帰ったのか上擦った声を出した。あたふたと暴れて、酸欠の金魚のように口をぱくぱくとさせている。
おお、コイツが慌てている、なんて感動さえも抱いて。
「土方さん、ちょ、いきなりどうしたんですかィ? つっかこの格好…」
「お前が柄にもなく我慢なんてしやがるから悪いんだ。おかげで俺は悩み疲れた。労わる義務がお前にはある」
「……。さっぱり意味が分かりやせん」
こんなときだけ素直になりやがって、全く呆れる。この薄情者め。少しだけむっとなる。
「手」
「え?」
「手回せ。いつも充電の時そうしてたじゃねェか」
「そりゃそうですけど……」
はぁと俺はため息をついて総悟の頭に顎を乗っけた。
はーやーくと促すと恐る恐るといった感じで総悟が俺の背中に腕を回す。視線の端でその両手が少し震えているのが見えてなんだか微笑ましく思えた。戦いの中には先陣切って誰よりも凛と背を伸ばし飛び込んでいくくせに、こういうところは可愛らしい。
「お前が変なことをやるから、俺も変なことを考えたよ」
本当はまだ結論が出ていなかったが、この部屋に来て総悟を腕の中に収めてこうして温もりを感じて、ぽかりとひとつの答えが出てきた。それは案外近くにあって、でも埋もれていて、きっかけがなければそのまま気付かなかったかもしれないものだ。けれどそのきっかけをお前はくれた。
「多分俺は、お前のことが好きなんだと思う」
思ったよりも言葉はすっと出てきた。まるで随分前から知っていた当たり前のことを口にするかのようで、そういうことを考えると気恥ずかしくなる。初心ですねと言って笑った総悟の声を思い出した。
腕の中の総悟から返事はなかった。ただ言葉は届いていて、背中に回った手がギュッと皺が出来るほど布を掴んだ。まるで本当にコアラになったようで、縋りつくようなそれにちょっと笑えてしまう。
「土方さん。もっとそれ聞きたい」
「あほ。ンな何回も言うかよ。1回で聞き取れ」
「だって俺今充電中でさァ! まだまだ足りやせん!」
叫んで総悟が顔を上げた。声が震えていた。泣きたいのか嬉しいのか訳の分からないぐちゃぐちゃな見たこともない顔がそこにはあって、腐れ縁と呼べる仲なのにまだお前の知らない顔があるんだとそんなことに気付いて、それを微笑ましく思う。
足りないと嘆く貪欲な子どもの澄んだ青を手で隠して、俺は顔を傾けて近づけた。陽だまりの温もりに似た柔らかな口づけを落とす。
手が濡れた気がして目隠ししていた手を外すと、一筋の涙を落として顔を歪ませて、アンタやってることが恥ずかしいんでさァとこんな時でも文句を垂れる総悟がいた。
「はいはい。これでもうフル充電だろ」
足りないとは言わせない。
もう一度腕に力を込めて温もりを抱きしめて、腕の中の温もりにどこかうっとりとしながら、そうそうこれこれ、と物足りなかったものを再確認する。
あー落ち着いた。
亜麻色の細い髪に頬を寄せて、そっと目を閉じて穏やかで優しいものに包まれるのを感じながら心の中で「充電中」と呟いた。