実のところアイツを引き留めるのは難しい。
ガキの癖に上辺だけしか取り合わず、本心なんてひょろりと無表情の裏に隠してしまう。
淡白すぎる興味心に周りも何かと手を焼いてきた。何を考えているのか分からなくて、俺も時たま本気で降参する。
ガキならガキらしい仕草表情をしろッつーんだ。
まったく、かわいくない。
もとより環境がそうして育て上げた、信頼安心という名で受け入れるゾーンがどんな奴よりも狭い。沖田総悟というのはそういう人間だ。
俺が知る限りでその円に受け入れられたのはたったふたり、近藤さんと姉のミツバのふたりだけだ。
ピラミッドの頂点にいる彼らを脅かそうとすれば、総悟はそれを守ろうとどんな奴でも簡単に残虐に冷酷に蹴落とし払い落す。例えそれがピラミッドの2番目に居ようが居まいが、総悟はそのゾーンを守る為ならばなんだってするのだ。
総悟にとってそのふたりは絶対領域であり、他者を受け入れない聖域である。踏み入れることは赦されない。それは俺ですら例外ではなく、ちょっとでも指一本でもゾーンに入ろうものなら躊躇わず総悟は刀を抜くだろう。
悲しい優先順位だ。
俺は刀を向けることが出来ないというのに。俺はお前を、とっくに俺のゾーンに入れているというのに。お前は俺を望んでくれない。
「土方さん」
それなのに俺を呼ぶその声が心地好く響くのはどうしてだろう。生意気なガキの癖にいつの間にそんな甘い声を出すようになったのか。考えるまでもない、十中八九俺が原因だ。
ああたまらない。
「なあ、何番目?」
「一番下」
「…かわいくねー」
きっぱりと言われて心の中で思いっきり脱力する。
ことの最中に問うたというのに、それでも俺の順位は変わらないという現実が俺を嘲笑う。
総悟にとってピラミッドの頂点が総悟のゾーンなら、俺はそこから最も遠い地上の上、いやそれよりも深く遠い地底に居るのかもしれない。総悟にとっては近藤さんやミツバを奪った敵と認識されているのだ。多分もう一生、俺はピラミッドの一段を踏むことさえ許されないのだろう。
そこまで考えて急に遣る瀬無くなって縋るように離さないように抱きしめて唇を貪る。
「総悟、」
「んっ…」
だからこそ繋がる夜がいとおしかった。この瞬間だけ総悟は手を伸ばして受け入れてくれるから、俺は赦された気分になる。
俺を見て俺だけのものになって。そんなことを毎日願っている。
お前は知らないだろうけど。
「なんて顔をしてんでィ」
快楽に生理的な涙を浮かべた総悟が笑う。そんな顔ってどんな。聞くと総悟はあつい息と一緒に言葉をはいた。
情けない面。迷子みたいなガキの顔。
白い手にするりと頬を撫でられる。
「あーあーもう、ほだされちまった」
その顔は反則だ。
どこか可笑しそうに笑って仕方がないと、総悟が腕を伸ばす。やや強引に頭を抱えられ、ぐっと肩口に引き寄せられる。
あつい夜あつい体汗のにおい、小柄な体のくせに子どもをあやすように髪を撫でられ、耳元でたったひとつの言葉をくれる。
アンタはアンタで大切なんだ。
その言葉は反則だ。
ああどうすればいいだろう。どれもこれも忘れたくなくて、俺の中はお前でいっぱいになる。これ以上俺にどうしろっていうんだ。俺のものはもう全部くれてやった。
なあだからお前のものが欲しい。指を絡めて舌も息も唾液も何もかも一緒くたにしてひとつになる瞬間を俺は希う。満たされて包まれた気になる。
この夢のような一瞬がすべてだと言ったら、お前は笑うだろうか。それとも受け入れてくれる?
言葉の代わりに名前を呼んで、この夜が永遠ならいいとそんな馬鹿なことを考えて、今日も俺はお前とひとつになることを望む。